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もう「はい」しか言えない柚子に、柊太朗は可笑しそうに笑うと突然立ち上がった。
急に自分より大きくなった柊太朗を見上げるべく柚子が顔を上げると、途端に唇が塞がれた。
貪るような、味わい尽くすようなキス。
柚子の口の中を掻き回し、ただでさえ呆然としていた頭がさらに機能しなくなる。
柚子を貪り尽くしたのち、名残惜しそうに柊太朗の唇が離れる。
「気が狂いそうだった」
柚子の唇の上で囁きながら口づけを繰り返す。
「柚子がいなくなって気が狂いそうだった」
「柊…太朗さ…」
「俺は、過去形なのか?」
頭が呆っとして柊太朗の質問の意味がすぐにわからなかった。
「…過去形…?」
柚子を見つめる柊太朗の瞳が心なしかすがりつくような瞳で、柚子は質問の意図を理解する。
以前柚子は『愛してた』と柊太朗に伝えた。
今現在の気持ちを伝えていない。
初めて柊太朗の気持ちを理解できたようで柚子は嬉しくて微笑んだ。
「柊太朗さん。ずっと、愛しています」
柚子が言うと、柊太朗は今まで見たことのないような嬉しそうな顔で笑った。
そして柚子を思いっきり抱きしめ抱き上げた。
「わっ…柊太朗さんっ!」
「良かったぁ。そうじゃなかったらどうしようかと思ってた」
――あぁ。なんだ。一緒なんだ。
柊太朗だって不安だったんだと、自分と一緒なんだと思った。
ちゃんと想いは我慢しないで言葉にしないと伝わらないんだと分かった。
「運ばれてきた柚子を見たとき心臓が止まるかと思った」
「…心配かけてごめんなさい」
「あのまま離婚に応じてて、違う病院に運ばれてたら、俺は柚子が倒れたことなんか知らされずにいただろう。
そんなの耐えられない」
夫婦ならばお互い何かあったときに一番に連絡がいく。
「これからもずっと、一番近くにいたい」
柊太朗の切実な想いが素直に柚子の胸に響く。
柚子も怖がらずに素直になることができた。
「柊太朗さんが嫌でなければ、ずっと一緒にいさせて下さい」
「…柚子…」
柚子の言葉に応じるように、柊太朗は更に強く柚子を抱きしめた。
「ちょっとー!?まだなの?
化粧崩れてたりしたら承知しないわよ!」
ドアをドンドン叩く音とともにアキラの声がした。
柊太朗は舌打ちをすると渋々柚子を解放しドアを開けた。
「ああもうっ!化粧しなおさなきゃ!」
アキラに怒られたのは言うまでもない。
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