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その洋館はハウスウエディングのできる小さな結婚式場だった。
広間に行くと、実也子に晴臣、さっき病院にいたはずの松原もいた。
そこにアキラも加わり、彼らの前で小さな結婚式を挙げた。
「もう一度はめてくれ」
そう言って柊太朗は柚子の薬指に一度は外した結婚指輪をもう一度はめた。
自分の指に戻ってきた指輪を見て、柚子は涙が止まらなかった。
そんな柚子を見て、アキラは「そんなに泣くと化粧が崩れるってば!」と騒いで、実也子になだめられていた。
晴臣は先日柚子の見舞いに来た帰りに、実也子を送ると言って病室を出たあと、渋る実也子を引き連れて柊太朗の所に行っていた。
そこで二の足を踏む柊太朗の背中を押したのだった。
「自分の気持ちを認めても認めなくても、柚子を失った時に感じる辛さは同じだろう」
晴臣にそう言われて自分の気持ちに正直になれた。
「柚子は貴方を愛してるから貴方を縛り付けちゃいけないと思って別れたのよ。その必要がないなら迎えに行くべきよ」
実也子にそう言われて柚子の本当の気持ちに気付いた。
式の合間に柊太朗が恥ずかしそうに教えてくれた。
松原にも、癪に障るけどアキラにも助けられたのだと。
ここにいる人達のおかげで自分は柚子を失わずに済んだのだと言ったあと、柊太朗は付け加えた。
「でも柏木には言うなよ。絶対調子にのるから」
事あるごとに「柊ちゃーん」と言って柊太朗をからかうアキラと、いちいち嫌そうにアキラをあしらう柊太朗。
案外良いコンビだなぁと思ったけれど、柚子は言わずにおいた。
大切な人達に囲まれて、愛する人が隣で笑う。
なんて幸せなんだろう。
「柊太朗さん、大好き」
思わず呟くと、柊太朗はびっくりしたように柚子を見て、それから優しく微笑んだ。
「柚子、愛してる」
愛する人が自分を愛してくれている幸せを噛み締めながら、柚子は真っ直ぐ未来へ足を踏み出した。
愛する人と共にある未来へ――
Fin.
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