296人が本棚に入れています
本棚に追加
待ち合わせ場所のカフェから程なく歩いて連れて来られたのは、こじんまりしたショップだった。
こじんまりしてるがお洒落でそこそこ品が良く、誰でも入りやすい可愛らしい店だった。
「この中からユズの好きな服選んで」
「この…中?」
この中とはこの店の中のことらしい。
手近にあるブラウスを手に取り値札を見ると、お手頃な値段が記載されている。
「安いでしょ?服は高けりゃいいってもんじゃないわよ」
ふふんと笑ってアキラが言う。
「あんた、どうせ周りがすすめたかなんかしたブランドの無難な服ばっか着てるんでしょ」
「…はぁ」
柚子はアキラの見る目に感心しているが、初対面の人間に心は開けずどっちつかずな相槌をうつ。
「周りの目は気にしない。ユズの着たい服を選ぶのよ」
「え…」
――それって一番困る……。
そんな柚子の思いなどお見通しだと言わんばかりにアキラが鼻で笑う。
「変わるんでしょ?」
そう言われて、柚子はコクンと頷いた。
そして店内を見回すと、近くの服から見定めていく。
――あ、これ可愛い。
――この色好き。
――このパンツだとどのトップスが合うかな…。
気が付くと、服を選ぶ作業を楽しんでいた。
それは今まで感じたことのない喜びだった。
なんとかTシャツとプリーツのスカートを選んだ頃には1時間近く経っていた。
選んだ服を試着室で身につけ、文句も言わず待つアキラの前に立つ。
「…こんなカジュアルな可愛い服、着たの初めて」
柚子はそう言って恥ずかしそうに微笑む。
「ふーん。さっき着てたワンピースよりずっと似合ってるんじゃない?」
アキラはそう言うと優しく笑って柚子の頭を撫でる。
柚子はその行為がなんだかとても嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!