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その後、サロンのようなところに連れて行かれ、大きな鏡の前に座らされる。
「さて、どうしたい?」
柚子の長い髪をほどき触りながらたずねるアキラと鏡越しに目が合う。
「…他の髪型はしたことがないの」
幼いときからずっとロングのストレートヘアで、それがお嬢様としては無難だったのだ。
「何してもいいの?」
「…何って?」
アキラの質問に見当がつかない。
「何って…カットにカラーにパーマ?」
アキラが呆れたように言う。
柚子にはカットしかピンとこず、カラーやパーマをした自分が想像できなかった。
「…アキラさんにお任せでも、いいですか?」
鏡越しにアキラを見つめると、アキラはふっと柔らかく微笑んだ。
「分かったわ。覚悟しなさいよ」
鏡の中の自分がどんどん変わっていく様を柚子は真剣に見ていた。
そして、ふとサロンなのに周りに誰もいないことに気づく。
「何よ今頃」
素直に質問すると、またアキラに呆れられた。
「今日は定休日よ。だから貸し切り」
「えっ!お休みの日に勝手に使っていいんですか?」
「いいのよ。アタシの店だから」
アキラがサラッと衝撃の事実を告げる。
「えぇっ!?スゴイ!!」
尊敬の眼差しを受けアキラは得意げに笑った。
かれこれ3時間ほど経過し、ヘアメイクが終了した。
鏡に映る柚子は全く別人のようで―――。
「どう?ユズ。気に入らない?」
無言で姿見に見入る柚子にたずねると、頭が取れんばかりに首を横に振る。
「そう。良かったわ」
ニッコリ笑うその顔に思わず見とれてしまう。
「何?アタシに惚れた?」
「はい!」
アキラの冗談に柚子は即答した。
キラキラした目でアキラを見つめる柚子に、拍子抜けした表情で二の句が告げなくなったアキラ。
次の瞬間、アキラは爆笑していた。
「あんた…犬っころみたい」
アキラの目には柚子が尻尾を振っておすわりしている様に見えた。
そうしてアキラは柚子を手なずけた。
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