妻の日常

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愛人の存在には割りとすぐ気付いた。 そして、やっぱり――と思った。 伊達に24年間医者の娘をやってきていない。 ほんとは、出会った日の優しいほほ笑みに柚子は少し期待していた。 この人は違うかも、と。 しかし、柊太朗もやっぱり他の人と変わらなかった。 少し落胆したけど、ただそれだけ。 その事実を淡々と受け止めた。 夫は柚子のことを結婚してから数回抱いた。 義務だから。 当然の様に処女だった柚子をいたわってくれた。 優しかった。 でもそれだけだった。 夫はいつも優しくほほ笑んで柚子を見るけれど、そこに感情は見られなかった。 柚子の知る限り、この世界ではこのパターンの結婚生活を送る夫婦は少なくない。 そして家にひとり残された妻は、若さと自尊心と性欲を持て余し、その解消に向かう。 つまり、愛人をつくるのだ。 お互い見て見ぬ振り。 その方が都合が良いから。 柚子の両親もその例に違わぬ夫婦だった。 お互いに必要なものは、家や名前や金であって愛情ではない。 ある意味合理的な世界。 柚子もひとりの時間と若さを持て余していた。 夫が家を出ると、ひととおりの家事を済ます。 そして、コーヒーを入れTVの電源をつけると見るともなく呆っとながめて過ごす。 近くのショッピングセンターが開店する時間になると一応化粧をし出掛ける。 服や雑貨などブラブラと眺め、欲しいものがあれば買うが何も買わない日の方が多い。 ランチを適当に済まし、食料品を買って帰宅する。 家に帰ると雑誌を見たり本を読んだりTVを見たり。 夕飯を適当に作ってひとりで食べる。 そして風呂に入り遅くならないうちに寝る。 そうして柚子のつまらない日常は過ぎていく。
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