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「いってきます」
柊太朗そう言って今朝はじめて妻の顔を見る。
すぐ扉を閉めるのだけれど。
24歳の妻は、年のわりに落ち着いていてふんわりほほ笑む。
何を考えているかは分からない。特に興味はない。
自分の将来のために結婚した相手だから邪険には扱っていない。
ちゃんと優しく丁寧に扱っているつもりだった。
妻は決して不細工ではないけれど、取り立てて美人ではないし、これといった特徴のない地味なお嬢様だ。
身体はさすがに若くて瑞々しいが、反応が乏しくてつまらない。
しかし義務だから数回抱いた。
あまり一緒にいないから、自分が家を出てから妻が何をしているか分からないが、恐らく買い物やサロンで暇を潰しているのだろう。
もしかしたら他の夫婦と違わず愛人がいるのかもしれない。
その方が都合が良い。
自分だけ――という罪悪感を感じずに済むから。
職場に着くと妻のことなどは一切思い出さない。
もともとそれほど気にかけていないのだから。
内科医として柊太朗は評判が良いし人気もある。
優しいほほ笑みと柔らかい語り口で患者の信頼は厚い。
看護師たちともうまくやっている。
仕事を潤滑にこなせれるかどうかは、彼女たちとうまくやれるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
彼女たちとは関係はもたない。
後々面倒なことになるし、看護師は決してかわいい女ではない。
それに何故か最近は『愛妻家』で通っている。
自分で私生活を話題にした覚えはないが、柊太朗が今まで築き上げてきたイメージのたまものだろう。
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