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由梨花はいつも妻の話をする。
比べる事で優越感に浸る。
――あいつにこんなことできないしな。
そんなことを思いながら由梨花を後ろから突き立てた。
柊太朗が帰ると部屋の明かりはすでに消されて、妻の姿はなかった。
1時近いからさすがに寝ているだろう。
由梨花の部屋で夕食もシャワーも済ませたから後は眠るだけ。
パジャマに着替えリビングの明かりを消すと寝室に入った。
静かに自分のベッドに入るとサイドテーブルのランプ越しに柚子をみる。
長い黒髪に埋まるようにして眠っているその顔は化粧っ気もなく綺麗な肌をしている。
柊太朗が何の気なく眺めていると柚子は寝返りをうって反対側を向いてしまい顔が見えなくなった。
柊太朗はランプの明かりを絞ろうと手を伸ばすと、何故か自分の方を向いている結婚写真に気付く。
写真の中でほほ笑む花嫁を見て、自分の妻はこんな顔をしていたっけ、と思う。
明かりを消して布団の中に潜り込み目を閉じると程なくして睡魔が襲ってきた。
眠りにいざなわれるその時、夢うつつに気付く。
――ああ、そうか。
笑顔だ。
最近、ほほ笑んだ顔を見ていないんだ――
写真を見た時に感じた違和感の理由に思い当たると満足し意識を手放した。
「今日は当直だから」
「はい。わかりました。いってらっしゃい」
「いってきます」
また、いつもの日常がはじまる。
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