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深夜の市街地を一人、少女が歩いていた。
からんころんからんころん。
若い女の一人歩きには向かない夜である。都会(ここでは単に田舎ではない、という意である)の濁った空気は月明かりを遮り、十数メートルおきにある街灯が唯一の光源とあっては心細い。
人っ子一人いない夜の路地。その道を少女は手に持った何かを見つめながら、ただ黙々と歩く。
からんころんからんころん。
そしてこの少女、大分時代錯誤の嫌いがある。手に持った何かが古めかしい巻物であるという点でもそうであるし、まず装いからして現代(もちろん21世紀の日本のこと)では人目を引くものだ。
端的に言えば、和装。少し描写するならば、紅色や白色の桜の花弁があしらわれた、桜色の着物姿である。老齢のご婦人ならいざ知らず、今時の若者で普段着に着物をチョイスする奇特な人物はまずいない、と断言しても差し支えないだろう。
からんころん、とふと音が止み、少女が立ち止まった。巻物を凝視し、一人ごちる。
「む、やはり移動しておる。こんな夜中に?いや、しかし……外法の者は闇に乗じるのが定石。何かしら行動していてもまったくの普通。むしろ貴奴が悪用している『気脈』の太さを考えると、一ヶ所に留まっているのを危険と見なすべきじゃろう。じゃが移動しておるとなれば先程行った探知の『術』は当てにならん。いささか『魔』を消費してしまうが致し方なし。逃がすよりましじゃて、『術』を掛け直すとするかの」
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