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  「チャイム鳴っちゃったね」 笹川楓の声で我に返る。そうだ。次、理科だった。 「ごめんなさい!起こしてくれてありがとう!」 笹川楓の手を離し、落ちた授業道具を拾い上げ私はその場を後にした。 「…吉川咲妃、か」 笹川楓が何か呟いた気がしたけど、私は理科室まで全力疾走した。 「はぁ」 「咲妃、アンタ本当に馬鹿ね」 屋上にてお昼。 外は快晴で気分も弾む。筈なのに、私はへこんでいた。 せっかく見つけた筈の理科の教科書を、何故か私は持っていなかった。 遅刻で怒られ、忘れ物で減点決定。 最悪。 「どこ行ったんだろ…教科書…放課後探そうかなぁ」 きっと笹川楓とぶつかった時にどこかに吹っ飛んだんだ。 「………」 笹川…楓 手、温かかったな。 手にははっきりと 笹川楓の体温が記憶されている。 『うん。可愛いよ』 笹川楓のその台詞が頭の中でリピートされる。 普段、男子にそんなこと言われたりしないから。ビックリした。 「ねえ!咲妃、聞いてる?」 「え、ごめん。何?」 まずいまずい。ぼうっとしていたようだ。千鶴の表情から不機嫌さがにじみ出ている。 「だから、今日バイトだから放課後教科書探すの手伝えないって」 「あ、うん。大丈夫、大丈夫。一人で平気だよ」 もう。と、千鶴はため息をついた。 「見つからなかったら一緒に明日私も探すよ」 「ありがとう千鶴」 ・
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