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  「咲妃、まだ?チャイム鳴っちゃうよ?」 「ごめん。教科書がなくて。あれ?」 がさごそ がさごそ。 机の中から教科書やノートを引っ張り出してみるものの見つからない。 「千鶴、先行ってて!」 「…分かった。バカね咲妃」 「はは」 次の授業は理科。 すんごい忘れ物に厳しい先生で、何か忘れると期末テストの点から10点もマイナスされてしまうのだ。 頭の悪い私はそれだけで致命傷になりかねない。 (絶対にあるはずなのに) 気づけば教室には私一人。 「あ、あった!」 数分後、ようやく見つかった。 教科書は数学のノートに挟まっていた。 授業開始まであと2分。私は一目散に教室を飛び出した。 が、 「うぉっ!」 どんっ と勢い良く何かにぶつかった。 その反動で私は尻餅をついてしまった。 「あたたた」 見上げた先にいたのは 「…大丈夫?」 笹川楓だった。 「ごめんね。僕がよそ見してたから」 そう言って笹川楓は手を差し出して来た。 いや、悪いの私でしょ。と、いうか笹川楓にぶつかったのか私。 「いや、えと、」 笹川楓の手を前にしどろもどろ。この手を取って良いのだろうか。 「…確か、文化祭実行委員だよね?」 不意に笹川楓は言った。 「え、あ、はい!そうです。」 手は相変わらず私を起こそうとして宙に浮いてる。手を取れと言うことだろうか。 「よろしくね。あ、名前は?」 「、え?」 「名前。何て言うの?」 痺れを切らしたのか、笹川楓は自分から私の手を取って立たせてくれた。私の全神経が手に集中する。 「よ、吉川咲妃…です」 「咲妃か。可愛い名前だね」 笹川楓はそう言って目を細めて微笑んだ。 ドキドキと私の心臓が自己主張を始める。 こんなに綺麗に笑う男子を見たことがない。 「いや、そ、そうかな?」 そう返すのがやっとだった。 「うん。可愛いよ。」 「っ…」 再度、微笑む笹川楓。 彼の顔を見てられず、私は下を向いた。 「吉川咲妃。覚えとくよ。」 私、絶対に今顔赤い。 手はいまだに握られたまま。 キーンコーンカーンコーン… どこかチャイムが遠くに聞こえた。
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