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三枚目
「今にも、話しだしそうでしょう」
いつの間にか、隣にいたのは痩せた店主である。
「私が店から出てきても気づきやしない……いや、気にも留めなかった、というところでしょうか」
店主は短く嗤うと、「たいそうなご執心ぶりだ」と言って再び笑った。
「執心だなんて。そんなことはありませんよ」
私は早口に言い返し、店主の方へ逸れた視線を彼女の方へ戻そうとした。
しかし店主は、
「なあに、隠すことはない」
大声で言って、私の視線を無理やりにたぐり寄せる。
「昨日、この子が手に入らないと分かったというのに、未練がましく今日もやって来た」
ケタケタという耳障りな笑い声。
「恥ずかしがることはありませんよ。あなたのような人は、珍しくない」
色白で、見るからに不健康そうなこの店主ときたら、見た目によらずずいぶんとよく喋る。
一つ一つ言いふくめるような口調の中には、ふてぶてしい自信が満ちているようだ。
「この子の値段を聞きに来た人は、みなさん次の日からは毎日この子に会いに来ます。よっぽど夢中なんでしょう、そういう人どうしがここで鉢合わせても、お互い見向きもしません」
店主のくぼんだ目が、ゆっくりとウィンドーの方へ向けられる。
「あなたも、よっぽどこの子に微笑んで欲しいようだ。だけどね――」
ケタケタ。
私はなんだか気味が悪くなって、急いで視線を彼女へ逃がした。
「だけどね。この子は私にしか、心を開きはしませんよ」
すると彼女は、ほんのわずかに――
わらった。
彼女は店主と目を合わせ、笑ったのだ。
私にはそう見えた。
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