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五枚目
日が経つにつれ、気づいたことがある。
彼女と見つめあう私の周りには、見慣れた顔ばかりが集まってくるということだ。
会社員風の男に、腰の曲がった老婆。
頭の悪そうな若い女に、よく肥えた汗臭い男。
いちいち数える気はないけれど、彼女の前に集まる人間はおそらく十人を超え、顔ぶれも老若男女様々である。
その誰もが、一様に彼女のことを見ている。
それも、ただ見ているだけではない。
彼らは皆、酔ったような顔つきで、熱のこもった視線を彼女のほうへ投げかけているのだ。
花の美しさを持っている上に綿毛のように気ままな彼女は、私以外にもこんなに大勢の人間を虜にしていたのである。
競争相手がいるという事実は、私の焦燥感を掻きたてるには充分すぎた。
これを機に、私は彼女と過ごす時間を従来の何倍にも増やした。
他の者に彼女の笑顔を、心を先取りされてはたまらない。
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