いつつめ

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 ポケットから携帯電話を取り出す。  田畑に電話をかけるのだ。  何を言うかは決まっていないけれど、早く何かを話さないと、手遅れになってしまうような気がするから。  そのとき。  手に取ったばかりの携帯電話がヴァイブレーションをはじめる。  メールが届いたらしい。  田畑か? ただごとではない期待を胸にメールを開くと、天宮雷造の文字。 「おまえかよ」  思わず声に出してしまった。  タイミングが良すぎるだろう、この野郎。  件名は『わかったぞ!』。  溢れ出んばかりの落胆を胸に本文を読む。 『あの傘の名前がわかったぞ! あれはカラカサじゃなくって、蛇の目傘っていうらしいぞ。いやあ、すっきりしたな』  最後にピースサインをつけている所が憎らしい。  ヘビの目って。  ところであの傘っていうのは―― 「ああ」  忘れていた。  あの、赤い傘のことだ。  何度も見かけた気味の悪い傘。  田畑のおかげで忘れかけていたのに、思い出してしまったじゃないか。  思い出すと、急に恐ろしい気持ちになる。  なにせ、おれは今、一人なのだ。  こんなときにあの傘が現れてもみろ。  おれは――  玄関の方に目をやる。  あるはずがない。  あるはずがない。  だってここは家の中だぞ。  鍵だって閉めたんだ。  入ってこられるはずが。  ないはずなのに。  そこには。  赤白の和傘。  おれの紺色の傘の隣に、当たり前のように立てかけられたヘビの目傘。  おいおい、こりゃあ、いよいよホラーじゃないか。  おれは悲鳴が出るのをなんとかこらえて、携帯電話を操作した。  電話をかけるのだ。  田畑にではない。  すぐ隣の部屋にいるはずの、雷造に。
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