ふたつめ

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

ふたつめ

 あの日と同じだ。  朝から曇っていた空は、昼を過ぎてとうとう泣きだした。  今朝の天気予報でも、昼から雨だと言っていた。 「孝治、帰らないのか」  よく通る声。  見上げると、肩幅の広い胴体に温和そうな顔がくっついている。 「講義終わってるぞ。寝てたのか?」  雷造はおれを見下ろしながら、笑って言った。  どうやら、講義の終わったことに気づかなかったらしい。 「寝ちゃあいねぇよ。空を見上げてたんだ」 「ははは、なんだよそれ。孝治っぽくないぞ」  孝治っぽいってどんなだよ。  おれも笑って応えながら、カバンを手に取ると机の上の携帯電話をポケットに突っ込み立ち上がる。  ノートなんてとっていない。  試験前になれば雷造にコピーをもらえばいいからな。 「おいまさか、傘がないなんて言わないよな。おれはごめんだぜ、おまえと相合傘なんて」 「ちゃんと持ってるよ。おれだって、あんなむさ苦しい思いはごめんだ」  雷造とは、少し前に一つ傘の下に並んで歩いたことがある。  おれが、雷造の傘にお邪魔するという構図だ。  雷造のやつは持ち前の優しさとでかい図体のせいで、左肩をずぶ濡れにしていたっけ。  田畑に傘をやった、その日のことだ。  傘のなくなったおれは、雷造の傘に入れてもらったのだ。  傘なしで帰るつもりだったおれを、気のいい友人は呼び止めた。  雷造とおれとは、同じアパートの隣室同士なので、なんと帰宅路の最初から最後までを同じ傘の下で歩いてきてしまったのだ。  おれが歩き出すと、雷造の足音がタンタンとついてくる。  講義室の入り口付近に設置されている傘置き場の前で立ち止まると、雷造もおれの横に来て立ち止まった。  おれがぼうっとしていたせいだろう、傘はもう数えるほどしか並んでいない。  雷造は迷うことなくベージュの傘を取り上げ、おれも自分の傘を取ろうとして、 「おっ」  気づいた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!