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いつつめ
雨足は強くこそならないけれど、弱くなる気配もない。
頭上の傘はさわさわと一定のリズムで鳴りっぱなしだ。
アパートの階段を上り、鍵を外して自室に入ると、湿気の多い玄関が出迎えた。
壁に傘を立てかけ、鍵をかけてから明かりをつける。
少し散らかった廊下にカバンを投げ置き、その奥の居間へ。
普段なら、テレビの電源を入れてあてもなくチャンネルを回すところなのだけれど、今日はそういう気分にはなれなかった。
田畑のことで頭がいっぱいなのだ。
どうすれば寄りを取り戻せるのだろうか。
電車を降りてから――いや、田畑と会ってから、おれの頭はそればっかりだ。
田畑はまだおれのことを完全には嫌っていないようなので、脈がないこともないだろう。
だけど、一方的に振っておいて、やっぱり撤回しますと言うのでは、身勝手にもほどがある。
それこそ本当に嫌われてしまいかねない。
すっかりぺしゃんこになった布製のソファに、身を丸めて寝転がる。
身を丸めないと寝転がれない大きさなのだ。
今となっては、田畑を振ってしまったことが後悔されてならない。
いったいどうして振ってしまったのか、そんなことに気づいたのでさえ、今日の田畑に会ったときなのだ。
それまでは、ただ漠然と、冷めてしまっただけだと思っていた。
田畑には嘘だと言ったけれど、他に好きな子がいたのは本当だ。
地味な田畑。
おれは、ずっとあいつに恋していたらしい。
きれいな田畑は、おれにとっては別人だったのだろう。
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