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朱色に塗られた艶のある傘。
明らかにビニール製でも布製でもない。
紙だ。
アリの行列に並ぶカブトムシ並みの存在感を持って、その傘は置き場に突き刺さっている。
「なあ、雷造」
さっさと歩きだしていたらしい雷造は、なんだよと不満な顔をしながらも律儀にスタスタと戻ってきた。
「これって、なんていうんだっけ」
紙の傘のことである。
「おおっ、こんなの生で見るのは初めてだなぁ。えっと、カラカサっていうんだっけ」
「ああ、唐傘お化けのやつな。そっか、カラカサって、もっとボロなんだと思ってたよ」
おれのイメージしていたカラカサっていうのは、白茶けた色をしていて、いかにも安っぽくて薄っぺらいものだったんだよな。
だけどこの傘は、いかにも高級そうだ。
漆が塗ってあるのかどうかは知らないけれど、こうつやつやしていると、伝統工芸品っていうような空気がぷんぷんと漂ってくるじゃないか。
「今どき珍しいよな。これ、おまえのだろ」
これ、というのは和傘のことではなくて、雷造が勝手に抜きだした紺色の傘のことである。
布製で、まだ汚れの少ない傘。
まさしくおれのものだった。
どうやら雷造の中では、もう和傘についての話題は終わってしまったらしい。
「そうそう、ありがとな」
傘を受け取ると、おれは雷造について歩きだした。
手元の傘は、田畑に傘を渡した後に買ったものだ。
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