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今日はやけに田畑のことが思い出される。
例えば、髪型。
おれと恋人もどきの関係になる頃、田畑は髪を伸ばし始めた。
おかっぱだったのが肩まで伸びて、最近では肩甲骨あたりまで伸びていたな。
髪型だけじゃない。
服装だって、ファッション雑誌に載っていそうなものを着てくるようになったし、眼鏡はコンタクトレンズに変わった。
化粧なんてほとんどしていなかった顔はきれいにメイクされ、ささやかなアクセサリーを身につけるようにもなった。
性格も明るくなって、生き生きと喋る田畑の言葉は、はきはきとして聞き取りやすかった。
田畑は、どんどん変わっていった。
おれと会うたびに、きれいになっていった。
そんなときだ。
おれと田畑との関係が、木っ端微塵になって吹き飛んだのは。
他に好きな子ができたんだ。
そう言ったのはおれである。
きょとんとする田畑に向かい、おれは続けてこう言った。
だからさ、別れない?
きょとんとしたまま頷いた。
初めて会ったときみたいに、震えるような頷きかただった。
お互いにつき合っているという認識があったのか、今となってはそんなことすら分からないけれど、恋人であれ友人であれ、そういう関係がおれの言葉によってぶち壊されたのは間違いない。
少なくとも、おれは田畑に恋していたのだろう。
だからあのとき傘を渡したのだろうし、二人で遊びに行ったりもしたのだ。
そのうちに、恋人と一緒にいるような錯覚に陥っていたのに違いない。
だから別れようなんていう言葉が出てきたのだ。
田畑は、きれいな田畑は、何も文句を言わなかった。
終始きょとんとしたままで、うん、そっか、わかったとだけ言った。
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