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そして、去っていく男の背が消えてから、青年は、そっと振り返り桃花を見る。
「君も、その気がないのならば、このような場所に出入りするのは、如何なものかとおもうけれどね?」
「す、すみません……わ、私…田舎から出て来て、今日、犀都に着いたんです…でも、仕事を貰えなくて…そうしていたら、さっきの方が仕事をくれると仰られ…ここに連れて来られたのです…」
騙されていたのが悲しかったのか、桃花は俯いていると、青年は桃花を品定めするかのように、頭から爪先までゆっくりと見下ろす。
「なるほど…悪くない…」
「えっ?」
何の事だろうと桃花は顔を上げて、青年を見上げると、青年は真面目な顔をして口を開いた。
「容姿も良いし、田舎の人間とは言え、先ほど貴女に目を付けた男は、目利きなようです」
「で、でも…わ、私……」
「えぇ、遊女なんて嫌でしょうね?ですが、皆が遊女に成りたくて此処に居るわけではありません。貴女のように、田舎から出稼ぎに来て、商人達には雇われず仕方なく家族の為に、遊女になった女性もいれば、小さな頃に借金の肩代わりにされ、花街に売られて仕方なく遊女になった者もいます」
「家族のため……借金の肩代わり…」
悲しい現実…
希望を夢見てこうして犀都に来た桃花だったが、あくまでも希望であり夢である。
桃花と同じ考えで田舎を出て来た娘が、この花街と呼ばれる艶やかな建物の中に、沢山居るのだろうと、桃花はぐるりと建物を見上げながら思った。
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