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「フーガ、お父さんの言うことを聞きなさい。リアドを困らせたらだめよ」
そう諭すのは母親のネイだ。白色の長髪を後部で束ね、丈の長いスカートをはいている。フーガの青い目は母親譲りだった。
めったに怒らないネイの表情に怒気が含まれていた。
「嫌だ。俺が逃げたら、父さんと母さんはどうするんだよ」
フーガが首を振り、左手を大きく横に振った。
普通ならその手が隣に立つ、フーガにあたっているはずなのにかすりもしなかった。左手がフーガの身体を通り抜けたのだ。
「……そうだよな」
唇を噛みしめ、寂しさにたえる。
ここは記憶の再現でしかない。リアドとネイに会えて嬉しいと、思う気持ちを抱くだけむだなのだ。
この場で起こる現実を嫌でも見据えなければならない。どんなにあがいても、再現でしかない記憶の中では、過去を変えられないのだ。
たとえ過去が変えられるとしても、起きてしまったことは、死んだ人間を生き返らせたらだめなように変えてはいけないのだろう。
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