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「そうだったな、ネイ」
「分かればよろしい」
二人は見つめ合って笑っていた。こんな状況にもかかわらず、素敵な笑みだった。
あるものとはなんだ。それに、あいつとは誰なんだ。これはフーガの記憶にないことだったし、この会話を聞いた覚えもない。
「フーガ、いくんだ」
「……嫌だ」
フーガは俯いて顔を上げようとしない。涙はとまらず、尚も流れ続けていた。
リアドが悲しみで歪みそうになる顔をわざと怒った表情に変える。
「最後くらい父さんの言うことをきけ! 分かったな」
びくっとフーガの肩が動き、遅れて首が縦に動いた。フーガが頷いたのは、父の覚悟を感じたからなのだろう。
顔を上げた少年の目には、涙が流れていなかった。悲しみをこらえるような決意を固めた面持ちをしている。
「忘れないでほしい、私とネイはおまえを愛していたということを」
「そうよ、フーガ」
ネイが微笑んで泣くような顔つきになる。
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