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明け方近く、やっと自室に帰りつき、寝台に倒れ込む。
もう何もかもが嫌だった。
涙が止めどなく溢れてくる。
投げ出した手首に残る痣が、更に追い詰める。衝動的に、もう片方の手で魔法力を宿し切り裂いた。血が飛び散り、溢れ出すのを何の感慨もなく見ていた。
そのまま意識を没した。
「お師匠」
朝になっても姿を現さないカルンを心配して、ディクトは部屋を訪れた。賢者が師匠であるため、特別に別棟に入ることを許されている。
部屋の扉を叩いて呼びかけても応答がない。おそるおそる扉を開け、あり得ない光景に立ちすくんだ。
手首から流れた血が、寝台をしたたり、床に血だまりを作っていた。
「お師匠っ!」
我に返って、寝台に駆け寄りカルンを揺する。しかし、硬く閉じられた瞼は開かれなかった。
ディクトは部屋を飛び出した。
混沌する暗がりをさ迷う。何処へ向かうあてもなく、ただ歩いていた。
突然、目の前に花々に縁取られた川が現れる。川幅は狭く、簡単に渡れそうだった。
(カルンっ、カルンリードっ、戻って参れっ)
誰かの声に呼び止められ、踏み留まった。振り返っても声の主の姿は見えない。
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