夢うつつ

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遠くに雨が鳴る夕方        イスに座ってうたた寝をして        気配がして目を開けると、よく知る人が立っていた。        「元気?」      「まぁね」        まだ醒めきらない意識で返事をする。        ゆっくりと歩きながら、相手は近付いてくる。        「嘘だ。生き急ぐようなことしてるくせに。」        鋭い言葉は心に真っ直ぐ突き刺さる。          「このまま足踏みだけしてても駄目だろう」        静かな部屋に響くのは、二つの声。        「進まなくちゃいけないんだよ」        一つの声は冷静に、一つの声は涙混じりに。        「まだ大人にならなくて良いんじゃない?」        「いつかは嫌でも大人になるだろ」          よく知る人物は涙を流して訴える。        「嘘だ。大人になったら僕のことを忘れるんだろう?」        「忘れないよ。泣かないで」        手を伸ばして涙を拭う。その手を掴まれた。        「ねえ、急がなくてもいいでしょ?」      「夢を叶えるためには止まれないんだ」        掴まれた手をそっと外す。        「夢を追いかけてないと、自分の生きる意味が分からなくなる」        「僕と離れても良いんだね」        「ごめん」        「良いんだ。君に死なれたら困るから」        いつの間にか雨の音がしなくなった。          「さよなら」      「さよなら」          大丈夫だよ。僕は君のそばにいる。            だって君は僕だから。          おしまい。
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