231人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう一週間も帰ってきてないんですよ!! 携帯に掛けても出ないし、そんなことありません!!」
声を張り上げ、奏多の言うことを否定する遥菜。 その小さな体のどこからそんな声が出るのか、と思わせるほどの声だった。
当然、奏多は圧倒され、優月すら驚きを隠せなかった。
「あ……す、すいません。 大きな声出して……」
「いや、こっちこそ……いいかげんなこと言ってゴメン」
申し訳なさそうに謝る遥菜の姿からは、先ほどの言葉が本音だというのが感じ取られ、同時に、兄を本当に心配しているというのがわかった。
依頼する人間は真剣に悩んで来ているのだ。
「帰ってきてないって言ってたけど、お兄さんと一緒に暮らしてるの?」
「はい。 学園の学生寮で住んでも良かったんですけど、兄は私がいないとダメですから」
“私がいないとダメですから”と言った時の遥菜は、照れたように笑っていた。 頬が少しばかり朱に染まる。
その様子から、どれだけ兄のことを想っているのか理解するのは容易かった。
ともなれば、優月の次の言葉は決まっていた。
「――わかった。 あなたの依頼、引き受けました」
パァッと遥菜の顔が輝き、優月の瞳はギラギラと燃え、奏多はなんだかイヤな予感がした。
最初のコメントを投稿しよう!