第1章 闇に隠れた死

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上野駅はやはり混んでいたが、上野公園周辺は平日のせいか、かなり空いていた。 チケットを買い、園内に入る。 「空いてるね」 俺の顔を見て夏美は言う。 俺の腕に夏美の腕が絡んでいる。 一時間くらいで半分くらいの動物を見学した。 「どうする?」 現在の時刻は16時半。 動物園の閉園時間は17時なので、そろそろ出なくてはいけない。 「じゃあとりあえず駅に戻って電車に乗るか。その後は池袋にでも行く?乗り換えにも好都合でしょ」 「そうだね」 夏美は微笑みながら答えた。 二人は電車に乗り、池袋へ向かった。 ラッシュ時の手前で、電車内の席は埋まっていたので、扉の横のスペースに二人は立つ。 「最近退屈なんだよねー。なんかバイト始めようかな」 夏美がiphoneを弄るのを止め、俺の顔を見る。 「バイトねぇ。でも夏美はそんな金に困ってないでしょ?俺は金に困ってるからバイトをしている」 「うーん。でも楽しそうじゃん」 「楽しくはないよー。俺は辛いね。でも同じバイトの人と知り合いになれるね」 「まぁそうだよね。じゃあ始めよっかな。コンビニのバイトでも」 「コンビニ?」 「うん。私、子供のときからレジを打つのが夢だったの」 夏美の可愛い夢に俺は思わず笑う。 「レジなんて何にも面白くないよ。最初はまぁちょっと面白かったけど、段々つまらなくなってくるよ」 「そういうものなのか。でもやっぱ始めよう」 「頑張ってね」 俺がそう言うと、夏美は再びiphoneに視線を移した。 俺は携帯で何かニュースがないか弄っていたが、いつの間にか、次の停車駅が池袋だった。 「着いたよ」 俺が言うと、夏美は顔を上げて、降りる準備をする。 かなりの人達が池袋駅で下車した。階段が混雑していて、改札を出るのに時間を要した。
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