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運命……そうだ……運命に違い無い……これが彼女の……。
こんな風に考えまわしてくるうちに私は耳の中がシイーンとなるほど冷静になって来た。そうしてその冷静な脳髄で、一切の成行きを電光のように考えつくすと、何の躊躇もなく彼女の枕許にひざまずいて、四五日前、冗談にやってみた通りに、手袋のままの両手を、彼女のぬくぬくした咽喉首へかけながら、少しばかり押えつけてみた。むろんまだ冗談のつもりで……。
彼女はその時に、長いまつげをウッスリと動かした。
それから大きな眼を一しきりパチパチさして、自分の首をつかんでいる二つの黒い手袋と、中折帽子を冠ったままの私の顔を見比べた。それから私の手の下で、小さな咽喉仏を二三度グルグルと回して、唾液をのみ込むと、頬を真赤にしてニコニコ笑いながら、いかにも楽しそうに眼をつむった。
「……殺しても……いいのよ」
(夢野久作/冗談に殺す)
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