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ぱたたた、っと軽い靴音をたててアイツが走り出す。揺れる髪から何かいい香りがした。気がする。
5メートルほど先に寝っ転がっていたのはでっぷりと太った猫。白が基調の白黒まだら模様で、頭のてっぺんが黒い。カツラ被ってるみたいだ。
…つか、俺の恋事情は猫以下か。
や、昔から猫やら犬やらが好きなのは知ってたけども。
なんか…お前になんか興味無いんだって言われているようで…。
はぁ…と、肩の力が抜けるようなため息が出た。
あー、落ち込んだ時ってマジにこんなため息が出るんだ。
なーんて、ホント、今日は柄にもねーって。
…調子出ねーなー。
まだまだじっとりと熱い。もう6時を過ぎているのにこの気温。立っているだけで体力を奪われていくようだ。
燃えるような夕日と、
それに照らされるアイツと、
アイツに撫でられなんだかご機嫌なカツラ猫。
それから少し離れて見てる俺。
…あー。うん。女々しいわ俺。
かっこわりー。
こんなんじゃ駄目だ。
あの人にはまだ勝てない。
ふと、アイツが猫を撫でながらこっちを向いた。揺れる髪にいちいち俺の心も揺れる。
それから「見て、カツラみたい。」と笑いながら言った。
あぁ…なんだ、同じことを思ってたのか。
そんなちっちぇ事で、少し嬉しくなった。
思わずニヤリと頬が緩む。
小走りに近寄って、側に佇む。
髪が長くなったのもそうだけど、コイツ、こんなに細かったっけ?
こんなに小さかったか?
汗が止まらない。
沈む前の最期のひと仕事か知らないけど、やたら気合いを入れて燃える太陽。
…ぜってー、見返してやる。
お前から、あの人の事なんて空っぽにしてやる。
「あのさ、」
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