カラスが鳴くから

6/6
前へ
/8ページ
次へ
ぱたたた、っと軽い靴音をたててアイツが走り出す。揺れる髪から何かいい香りがした。気がする。 5メートルほど先に寝っ転がっていたのはでっぷりと太った猫。白が基調の白黒まだら模様で、頭のてっぺんが黒い。カツラ被ってるみたいだ。 …つか、俺の恋事情は猫以下か。 や、昔から猫やら犬やらが好きなのは知ってたけども。 なんか…お前になんか興味無いんだって言われているようで…。 はぁ…と、肩の力が抜けるようなため息が出た。 あー、落ち込んだ時ってマジにこんなため息が出るんだ。 なーんて、ホント、今日は柄にもねーって。 …調子出ねーなー。 まだまだじっとりと熱い。もう6時を過ぎているのにこの気温。立っているだけで体力を奪われていくようだ。 燃えるような夕日と、 それに照らされるアイツと、 アイツに撫でられなんだかご機嫌なカツラ猫。 それから少し離れて見てる俺。 …あー。うん。女々しいわ俺。 かっこわりー。 こんなんじゃ駄目だ。 あの人にはまだ勝てない。 ふと、アイツが猫を撫でながらこっちを向いた。揺れる髪にいちいち俺の心も揺れる。 それから「見て、カツラみたい。」と笑いながら言った。 あぁ…なんだ、同じことを思ってたのか。 そんなちっちぇ事で、少し嬉しくなった。 思わずニヤリと頬が緩む。 小走りに近寄って、側に佇む。 髪が長くなったのもそうだけど、コイツ、こんなに細かったっけ? こんなに小さかったか? 汗が止まらない。 沈む前の最期のひと仕事か知らないけど、やたら気合いを入れて燃える太陽。 …ぜってー、見返してやる。 お前から、あの人の事なんて空っぽにしてやる。 「あのさ、」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加