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暗く、汚らしい通りがあった。
ゴミなどはそこらじゅうに散らばり、犬が得体の知れぬ食物を漁り、そして浮浪者が死んだ目をして座り込んでいる。
ここは、各地に広がる地下都市の一つ『サンクチュアリ』の一角だ。
その名とは裏腹に、経済も治安も、平均を大きく下回っており、普通の平凡な人間など恐らく一人も居ない。
にもかかわらず、ここには監視カメラが全く無い。付けたとしても、壊され、金になりそうな部品を持って行かれてしまうからだ。そういうわけで、ここはならず者にとって、ある意味『聖域』と言えた。
そこに、早足で歩く、一人の影があった。
背は子どものように小さく、どうやら少女らしい。不規則に点滅する街灯が、その頭から垂れる金髪を綺麗に照らしている。
こんな所に少女が現れたとすれば、そこの人々が考える事は一つ。強姦だ。
現に、幾人かのボロを纏った男は立ち上がり、近寄るが、急に立ち止まってしまった。彼女の顔を覗こうとした瞬間、無言のうちに、そうなっていた。
そのうち、少女は、大柄な男とぶつかった。少女は気にせず歩き出そうとするが、男が黙っていよう筈はなかった。
「オイ、テメェ?」
男はゲスな目を少女に向け、襟首を掴んで引き寄せる。
彼の余った手には、いつの間にかナイフが握られていた。
「何ぶつかってくれてんだ?不用心だぜ……」
男はいかにも屈強そうな腕を上げ、ナイフを少女に突き付けた。今にも、犯しかねない勢いだ。
「なあ、その代償ってモンを……」
彼は言いながら、少女の顔を覗き込もうとする。
しかしその瞬間、二人の間に一閃が走った。
直後に、男の顔は切り裂かれ、左目のあたりから出血していた。
「ギャアアッ!?」
男は悲鳴を上げ、思わず後ずさりする。
その隙を突くように、少女は右手を振る。その手には、大型のナイフが握られていた。
再び、一閃の後に鮮血が舞った。男のナイフを持っている方の手が切られ、動脈が切断されていた。
「や、やめてくれ!頼む!」
先程の勢いが嘘のように、男は必死で慈悲を請う。
少女はゆっくりと彼に近寄り、立ち止まる。右手のナイフは、濁った赤で染め上げられていた。
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