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若い男ねえ…。
そう言っていたがね、アタシもそんなに変わらないんだけどね、あの人達はアタシを幾つだと思ってるんだろうかね。
黄月は今年、十七になったばかりだった。
まあねえ、この長屋に一番長く住んでるからね。
江戸の真ん中、本玄長屋は十数年前に一度、店子が空になった。
前の大家だった人の女房が全て追い出したのだと聞いていた。
旦那の色が住んでいる。
そう言う噂が立ったのだった。
黄月は信じていない。
大江戸八百八町といえども、囲いたくなるような女、ましてや長屋に住む様な女に良い女などいやしない。
近くにあばた顔の年増を置くくらいなら、遊郭にでも行った方が大分ましだろうに。
しかしそこは女房である。
どの女を見ても旦那の色に見える。
婆さんだろうがこぶ付きだろうが、全部が旦那に色目を使っている様に見える。
大家のおかみさんは店子を散々虐めて、とうとう女を全部追い出した。
しかも皆が皆、所帯持ちの誰かの女房だったのが馬鹿らしい。
清々した。
おかみさんはそう言った。
清々したも何もないのが大家その人である。
そもそも本当に噂は噂だったのだ。
火のない所に云々と言うが、誠に火種はなかったのだそうな。噂の出所はそれも馬鹿らしいのだけども、追い出された店子の一人だったのだ。
「神社で転んだお春さんを大家が介抱して、手を引いていた」
ただの親切である。
それだけの事が悋気に触れた。
挙げ句の果てが長屋大清掃であった。
当然、家賃が入らないから大家の家計は火の車になる。
新しい店子を入れるにも、やれ女子はいかぬ、若い娘はいやらしい。などと結局誰も居着かず、大家は商いを手放した。
ああ、清々した。
またおかみさんは言ったそうな。
少しおかしかったのだろうねえ。
黄月はそう思った。
新しい大家の元に一番最初に来たのが、黄月と姉のお光だった。
あれから十数年。
江戸の事件といやあ、色恋沙汰ばかり。
黄月はそれも気に入らなぬ。
なにが楽しいかちっともわからない。
長屋の女どもはみんな浅黒くて、髪もゆるんでこ汚い。
みんないずれは―
変わる、老いる、朽ちる。
そんなものには価値はねえ。
銭は変わらねえ。
黄月は懐に入れている一分銀をやわりと撫でた。
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