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喧騒。周りの音は不愉快に鼓膜を揺らしていた。悲鳴や叫び、呟きが混じり合い一種の混乱状態になっている。
少年はその中央にいた。道路の真ん中、彼を囲むように人々がいる。視界は赤く染まり、少年は目を何度も擦った。
痛くても、何度も擦った。それが血の赤だと理解出来たのは少し後。いや、本当は分かっていたのかもしれない。ただ、認めたくなかった。
視線を上に向ける。空はいつもと変わらず、青く染まっていた。白い雲が流れ、自分を見下ろしている。それが、堪らなく憎かった。変わらない空が、憎かった。
人々の動きは慌ただしくなる。白く大きな車がやって来て、数人の人間が自分に話しかけてきた。
「大丈夫? 傷を治すからおじさんと一緒に来てくれるかな?」
少年はその時、初めて自分が怪我をしていると知った。全身は血で汚れ、擦り傷や切り傷でいっぱいだ。
周りを見渡す。すると、大破して壊れた車が目に入った。
「ああ……あァ……」
小さな呟き。意味の無い声が少年の口から漏れた。
視線の先には血まみれの『モノ』。顔は潰れ、手足は折れ曲がっている。誰が見ても、それは『モノ』であった。人間ではない、物体。
それが何かを分かった瞬間、少年は目を見開く。
「いやだ……いやだぁ」
涙が溢れてきた。
「あぁ……」
そして、胸に広がる悲しみと憎悪を吐き出すように、その場に悲鳴が響いた。
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