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悪夢を見ていた。それは誰か大切な人が死んでいってしまう夢。たくさんの大切な人。友人、恋人、そして家族。全てが目の前から消え去っていく。
嫌だ。こんな事は嫌だ。そう叫んでも、変わらない。悪夢は待ってくれなかった。
◇◇◇
窓を叩きつける雨音で、坂本 祐一は目を覚ました。激しい雨は視界を悪くする程に激化し、祐一はため息をつく。最悪な寝起きと、悪夢を見たからだ。
あの日から、全てが変わってしまった。五年前、自分の目の前で両親が死んでしまったあの日から。今は親戚に引き取られ、そこで暮らしている。
頭を押さえ、記憶を閉じようとした。人間ではなくなってしまった両親。目の前で、残酷な姿を見せつけられた祐一の心には深い傷が刻まれていた。
寝転んだまま、部屋を見渡す。机が部屋の中央に置かれ、床にはゴミ一つ無い。黄ばんだ壁に接するように、タンスとテレビが並んでいる。綺麗、というよりも殺風景な部屋を見て、祐一は暗い表情を浮かべた。
両親が死んで、この家に来てから何もやる気が起きない。毎日を惰性のように過ごし、無気力なままただ生きていた。
また記憶が甦ろうとした時、反対側にあるドアが叩かれた。
「兄さん、入るよー」
明るく、可愛らしい声が部屋の中に響く。
祐一は、無表情でドアを眺めた。
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