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声の主は、祐一の返事も聞かずにドアを開けた。そこから現れたのは背の低い少女。長い茶色の髪をポニーテールにしており、温かく明るい笑顔が印象的で、可愛らしい顔付きだ。年齢は十代半ばくらいか。
祐一は少女を見て、憂鬱な気分になる。彼女は祐一の妹で、血も繋がっている。あの事件では、彼女は家にいた。だからあの光景は見ていないのだ。
だけど、血縁の妹を見ていると、あの光景を思い出してしまう。出来れば、彼女の姿は見たくない。声も聞きたくない。嫌っているのとはまた違う。
祐一は妹を見て、低い声を出した。
「勝手に入るなよ、渚」
妹──渚は祐一の反応に、口を尖らせる。
「声はちゃんとかけたよ。せっかく起きてるか見に来たのに……」
「来なくていい。さっさと出ていけ」
無表情のまま言うと、渚は目を伏せた。暗い、何かを思い詰めているような表情だ。
「うん。分かった。迷惑かけてごめんね」
無理やり作ったような笑顔を浮かべると、彼女は静かに部屋を出ていった。その姿に、祐一は胸を痛めるが、歯を食いしばって堪える。
いつから、絆は無くなってしまったのだろう。いや、自分が捨てたのかと、祐一はため息をついた。あの光景を見た頃から、全ての事を拒絶するようになってしまったのだ。
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