0人が本棚に入れています
本棚に追加
リビングに着いた祐一は無言で席に座る。隣には渚が座っており、明るい笑顔を見せた。なぜ自分にこんな笑みを見せられるのか、祐一には不思議で仕方がない。もう終わってしまった人間の自分に。
「おはよう、兄さん」
「……おはよう」
無表情のまま挨拶だけは返す。当然のように祐一は喋りかけるな、と言わんばかりに口を閉ざした。会話が続かず、場に一瞬の静寂が流れる。
静けさを切り裂いたのは、野太い男の声であった。声の主は陽気に朝の挨拶をし、祐一の前に座る。少し大柄で、筋肉質な体を持つ男性。彫りの深い顔で、肌は健康的に焼けていた。
「おはよう祐一、渚! 二人とも、寝ぼけてないか? 父さんは朝から元気だぞ!」
うんざりだ。祐一は心中で呟き、軽いため息をつく。朝からハイテンションでいられると、こっちの気が滅入ってくる。この父親はいつもこうだ。
対して渚は何が楽しいのか、笑いながら父親に話しかける。
「父さんテンション高過ぎ」
「ん? ちょっとウザかったか? 反抗期か?」
「ちょっとだけウザかった。ほら、兄さんも言ってあげてよ」
渚は軽いノリで祐一に話を振ってくる。無視する訳にはいかないが、会話を避けたい祐一は無理やり小さな笑みを浮かべ、口を開いた。頬が引きつるような笑い方だが、気にしない。
「良いんじゃないの? 別に、気にしないし」
どうしても、今までの癖で冷たい声になってしまう。ダメだと頭では分かっていても、癖になってしまった今では変える事も出来ない。きっと、心が息を吹き返せば普通に接する事が出きるのであろうが今の自分では無理だ。
死を迎えたモノは、何をしても生き返らない。
最初のコメントを投稿しよう!