prolog

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カシュッ と気持ちの良い音が鳴り、プルトップに空いた穴からは湯気が顔を出し始めた。 ずいぶんと陽は暖かくなってきたけれど、少し肌寒くて。 手に持っている缶コーヒーが指先にじんわりと熱を送ってくれる。 「……あちっ」 グイッと飲めば火傷しそうなほど熱くて。 それでも仕事で疲れた頭にはその熱さが丁度よかった。 誰もいない会社の屋上で、自分の肩ほどまでしかない銀色のフェンスに腕を乗せもたれかかる。 昔は汚れることが嫌だったこの背広も、入社から2年も経てばそんな考えは薄れてしまうのか… 今では全く気にならなくなってしまった。 このまま寝れるかもなぁ なんて呑気に思っては目を閉じる。 ―――― ―― ふわり、と。 ふいに柔らかい風を感じて目を開ける。 目の前には数枚の花びらが舞っていた。 少し身を乗り出すと、会社近くの大きな桜の木がちらはらと花を咲かせているのが見える。 「もう、春なんだ…」 ぽつりと零せばスッと空を見上げた。 ―ねぇ、千雪? 今年も綺麗な桜が咲きそうだよ。 あと少しで 僕等が出逢った 君が好きだと言った春が 君がいなくなったあの春がやってくるね…― .
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