prolog

4/5
568人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
「…久しぶり、千雪」 花束を置くとともに腰を下ろし、手を伸ばして墓石を撫でた。 俺の一番大切なもの… それは、この中に眠っている 【笹本千雪】という人間。 今日は彼女の二周忌だ。 「ほら…お前の好きなチューリップ」 沢山買うの恥ずかしかったんだぞ? と笑って呟いた。 ふと、気になってまじまじ見つめると墓石が少し綺麗になっていた。 「佐恵子さん…もう来たのかな…」 佐恵子さんというのは千雪のお母さんの名前で、とても優しくて可愛らしい人だ。 他人の俺にもよくしてくれて、感謝してもしきれないくらいだった。 千雪の生前には、千雪は内面も外見も母親似だね、なんて話したことを覚えている。 (その時は千雪もすごく嬉しそうに笑ってたっけ…。) だがその佐恵子さんが来たのだと考えると、そのわりには掃除が雑だ。 几帳面で綺麗好きな佐恵子さんはもっと隅々まで磨く人だし、何よりいつも置いていく桃缶がない。 変わりに置いてあるのは、不格好に飾られた色とりどりの花だけ。 不思議には思ったが、誰か友達が来たのかもしれないと思い立ち上がった。 「線香貰いに行こ…」
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!