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「…久しぶり、千雪」
花束を置くとともに腰を下ろし、手を伸ばして墓石を撫でた。
俺の一番大切なもの…
それは、この中に眠っている
【笹本千雪】という人間。
今日は彼女の二周忌だ。
「ほら…お前の好きなチューリップ」
沢山買うの恥ずかしかったんだぞ?
と笑って呟いた。
ふと、気になってまじまじ見つめると墓石が少し綺麗になっていた。
「佐恵子さん…もう来たのかな…」
佐恵子さんというのは千雪のお母さんの名前で、とても優しくて可愛らしい人だ。
他人の俺にもよくしてくれて、感謝してもしきれないくらいだった。
千雪の生前には、千雪は内面も外見も母親似だね、なんて話したことを覚えている。
(その時は千雪もすごく嬉しそうに笑ってたっけ…。)
だがその佐恵子さんが来たのだと考えると、そのわりには掃除が雑だ。
几帳面で綺麗好きな佐恵子さんはもっと隅々まで磨く人だし、何よりいつも置いていく桃缶がない。
変わりに置いてあるのは、不格好に飾られた色とりどりの花だけ。
不思議には思ったが、誰か友達が来たのかもしれないと思い立ち上がった。
「線香貰いに行こ…」
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