21人が本棚に入れています
本棚に追加
「よかったわね、ほんとに…… 一時はどうなるかと思ったけど……」
真っ白と言っても過言でないくらい綺麗に磨かれた廊下。
一人の女性と、その息子と思われる少年が並んで歩いている。
女性は安堵の表情を浮かべ、感極まって今にも泣き出しそうだった。
「優治、ほんとに体は大丈夫なの?」
「大丈夫だってば、母さん」
優治と呼ばれた少年は多少笑みを浮かべ答える。
「その桜の枝、まだ花が咲いてるのね……、なんか怖いわ、枝だけで2年間も――」
「怖くないよ」
自動ドアを通り抜け、優治は何ヶ月ぶりの日光を浴びる。
優治の左手に握られている小さく、細長い花瓶。
その中に入っている 桜の枝を優治は眺め、小さく微笑む。
「だって――」
一足先に外に出た優治とは違い、のんびりと歩いて来た母親の方へと振り向く。
「これは、俺の大切な人の一部だから」
最初のコメントを投稿しよう!