(ゆびきりげんまん)

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よく人は失って初めて大切なものに気づくと言うけれど、 俺の場合は本当に永遠に失ってしまう前に、それに気づくことができて幸運だと思う。 病気や事故、事件などで愛するものを失ったとき。 ……愛するものなんて言ったらこっぱずかしいが、親や家族、恋人、親友、大事に飼っていたペットなどと、 もう二度とコミュニケーションを取ることができないと分かったとき、人は皆決まって後悔するはずだ。 あの時こうすればよかった、もっと素直になればよかったと。 そんな風に、後悔なんてものは必ず後からやって来るもの。 それはもうどうしようもないことなのかもしれない。 ただ、後悔なんて必ずするものだと分かったうえで生活するのとしないのとでは、ずいぶんと大きな違いがあると思う。 そういった意味で俺は、ほんとにラッキーだったのだ。 いつかこの先、またあいつと暮らすときがきたら…… いや、あいつだけじゃなくても誰かと共に生活するときがきたら、 俺は前よりずっと毎日を大事にするだろう。 お互いの間に生まれるどんな些細な出来事も会話も、 本当はそれこそが何よりも大切で幸せなことなんだと、もう知っているのだから。
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