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『誘導班F、足止めに間に合わず。エリアC突破されました!!』
二階から監視する竹山の声にも焦りが感じられる。
『トロいわね……初陣だから仕方ないけど……』
ゆりはそう言うと思わず舌打ちをする。
しかしあいつも、皆の統率がまだ取れておらず、ノウハウもわからないのは理解しているだろう。
だけど、やはりそこを統率するのがリーダーの仕事であると感じているのだろうか、その声はやりきれない気持ちがこもっている。
『斎藤君!!目標はそっちに向かったわ。任せたわよ』
『任せろゆりっぺ!!』
「さ、斎藤!?」
斎藤とは、同じクラスの友人であり、あまりの釣り好き故に「フィッシュ斎藤」と言うアダ名が付くほど。
「なんでお前が!?」
『そりゃSSSの構成員だからな』
「しかしお前、どうやって足止めすんだよ!?」
『サンマを焼いてある!!大抵の人間はこのうまそうな香ばしい匂いで足を止める!!む、来た!!』
そう言うと無線を切った斎藤。
確かにあいつの焼く魚は抜群にうまい。イケるかもしれない。頼むぞ斎藤!!
『フィッシュが素通りされたぞ!!』
「斎藤おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
オレは思わず絶叫してしまった。
食うどころか素通りじゃねぇか!!
お前を信じたオレに謝れ!!あと焼かれたサンマにも謝れ!!
『どうするゆりっぺ!?』
『仕方ないわね。椎名さんお願い』
野田の叫びが聞こえるとゆりがすぐに返した。
『承知!!』
「何やらすんだよ」
『か弱い乙女作戦。椎名さんには奴らの進軍ルートに寝転んで貰うわ』
「それはつまり……囮か?」
確かに忍者ならエリア移動など造作もない。
『そうよ。広範囲に使える最強のデコイ。でも一度しか使えない上に、監視役の彼女を失う事になるから……最後の手段だったんだけど』
確かに……。
今の状況では、ゆりが躊躇せずに使ったのは称賛されるべき采配だろう。
だがこれでオレ達の「目」は二階の3人だけになったって事だからな。
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