記憶

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…… 少女は息を切らして走っていた。 真っ暗で湿っぽい路地の石畳を。 石造りやレンガ造りの家々がゴチャゴチャとひしめき合っているその谷間をノラ猫のように駆けている。 裸足の足には、冷たく硬い石畳は少しも優しさを伝えはしない。 余分に湿り気を帯び乱れた長いブロンドの髪が、少女の汚れた額やら頬に貼りついている。 齢の頃は5、6歳であろうか……。 背丈や身体つきからは、そう推測される。 しかし少女の目だけは、その幼い身体つきにはまったくそぐわない。 妙に大人びた眼差し……とでも評するのだろうか……。ただそれも良い意味ではない……。 傷つき、裏切られ、誰かを信じることを忘れてしまった大人の持つ眼差しのそれだ。 少女はその眼差しで真っ直ぐ暗がりを見据え、一心不乱に駆けていた。 少女が腕にしっかりと抱き抱えているのは大きなパン。 これを取り返えされる訳にはいかない。 なにしろ3日ぶりの食糧だ。 たとえカチコチでボソボソだとしても、彼女「たち」にとっては、久しぶりのご馳走だった。
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