記憶

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追いかけてくる男はボロボロの黒ずんだ深緑のコートにボロボロのジーンズ。 黒い長髪と顎髭は垢で固まってゴツゴツしている。 血走った目には決死の意志が籠もるものの、荒い息を切らしながら靴底の剥がれに足元を取られ思うように先に進まない。 (どうせこのパンだって盗んだものに違いない……だったらそれを盗んで何が悪いの?) 次第に引き離している気配を感じながら、少女は待ちわびている仲間の事を考えた。 敵だらけの世界において、唯一信じられる仲間。 親に捨てられ、いつしか寄り添うように集まってきた孤児たち。 大人は信じちゃいけない……。 彼らは欲深く、いつも裏切る……。 (待ってて。すぐに届けるから) (よし!あの大通りを渡れば、この男、振り切れる! このゲーム、私の勝ちだわ!) 狭く真っ暗な路地を飛び出し大通りに差し掛かった瞬間だった。 少女に襲いかかる光と衝撃。 バクン!!!!! 左から物凄い衝撃を受けて少女の身体は宙を舞った。 衝突した黒い車体には大きな窪み。 ブレーキにタイヤが軋む音は明らかに衝撃音の後からだった。 砕けたパンは辺りに飛び散った。 宙を舞った少女の身体は左肩から石畳に叩き付けられた。 グシャリ……。 ……  
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