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「いいよ……」
あたしが彼に近づきながら言うと、彼はこちらを向くなり頭を下げ、
「本当にすまなかった」
「別に……気にしてないから……」
見られちゃったものは仕方がない。
それに、わざとじゃないし、礼儀正しいし(ちょっと口調が偉そうな感じだけど)。
「──そう言ってもらえると助かる」
彼は言って頭を上げた。
「僕の名はラーサ」
ラーサ? この人、あたしの考えた小説の主人公と同じ名前。
しかも、喋り方や雰囲気が、主人公のイメージにピッタリ。
「僕の捜している人にあまりにも似ていたもので、その……軽率な行動をしてしまった」
いや、面と向かって照れられると、こっちまで……
あたしの裸も、それなりに男性を照れさせるくらいの魅力はあるって事かな──って、なに考えてるんだあたし。
なんだか気まずい沈黙が……。
とにかく、まずはこの空気をなんとかしよう。
「そ、そんなに似ている?」
「ああ。そっくりだ。ティアというんだが」
ティア?!
それって魔王にさらわれるお姫さまのニックネームにしようかと──あ、そっか! あたし今、自分の考えた小説の登場人物になった夢を見てるんだ。 ティア──ミスティアは、あたし自身をモデルにしたキャラクターだから、似ていて当然だし。
「キミの名前を訊かせてくれないか?」
「え? あたし? あ、でも、あたし、ミスティアじゃ──」
途端に彼の顔に、驚きと疑惑の色が浮かんだ。
一瞬、その理由がわからなくて、「何か変なことを言ったかな?」と自分に問いかけ、次の瞬間、「やばっ」と思ったときにはもう遅かった。
「なぜティアの本名を知っているんだ?」
「あ、あの、えっと──」
どうしよう。焦れば焦るほど頭の中は真っ白になっていく。
とにかく、何か言わないと、もっと怪しまれちゃう。
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