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「……朱里(シュリ)」
ぽん、と後ろから肩を叩かれて私は我に帰る。
「……優子(ユウコ)」
「朱里、もう行こ?」
どうやら優しい優子は、様子のおかしい私のことを連れ出しに来てくれたようだった。
私は小さく頷く。
優子は優しい笑みを浮かべると、私の背中をやんわりと押した。
その手が温かくて、私は思わず茜の最期の姿を思い出してしまう。
茜の手は……
こんなに温かくなかった。
むしろ、氷のように冷たくて……
そして茜の身体を彩っていた赤は、ほんのりと温かくて……
目は、閉じ切らずに少しだけ開いていた。
「……う」
急に吐き気が込み上げてきて、私は咄嗟に口を押さえる。
「朱里? 大丈夫?!」
優子が慌てて鞄の中からビニール袋を探す。
私はそれを片手で制した。
「……大丈夫だから」
「でも……」
優子は心配そうに私の顔を覗き込む。
私は何とか吐き気を堪え、微笑んでみせた。
すると、優子は少しだけ安心したのか、鞄の口を閉めた。
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