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「じゃあ朱里、またね。気をつけて帰るんだよ?」
「うん」
優子の私を気遣う言葉に小さく返事をすると、私は優子に背を向けて歩き出した。
空はもうすっかり暗くなっていて、風がちょっぴり冷たかった。
「もう秋か……」
一人、呟いてみる。
昼間はあんなに暑かったのにな。
私は肩を撫でると、立ち止まって空を見上げた。
――茜は、もういない。
いつもなら、この道を通る時には必ず茜がいた。
二人で、馬鹿みたいな話をして、騒いで。
時には真剣に恋バナをして、悩んで。
今思えば、そんな平凡で暖かな日常が、かけがえのない宝物だった。
……茜のバカ。
私のバカ。
どうして茜の苦しみに気がついてあげられなかったの。
あんなに一緒にいたのに。
大切な、友達だったのに。
「ごめんね……」
私は、ぽつりと呟いた。
今はもういない友達に向けて。
当然誰かが返事をしてくれるはずがなく、その呟きは私の中で儚く消えていった。
――それから、星の輝く夜空の下で、私は一人とぼとぼと帰路を進んだ。
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