第一声

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第一声

 この部屋を出て行こうと思う。  小さいながらも一人暮らしには充分すぎるほどの広さを持つこの部屋に、何か不満があるわけではない。  かといって、この部屋の家賃を払えないほど金銭的に困っているわけでもない。  アパート二階の角部屋となるこの場所は、近所に高層建築物などもなく日当たりは良いし、隣の部屋も真下の部屋も空室となっているらしく、静かな場所が好きな私にはもってこいの環境である。  それでも私がこの部屋を出て行こうとしているのは、何のことはない、ただ単にここではないどこかに行きたいというだけのことだ。  この部屋が大豪邸だろうが屋根も床板もない廃屋であろうが、私の決断に変わりはなかっただろう。
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