モブ、ミーツ、ガール

2/25
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
物語には必ず主人公が居る。 どんな物語であろうと、その話と中心となる主人公が。 そして、主人公は大体誰にも負けない才能が一つや二つあって、特異な存在だ。 ……物語といえば、人生もそうなのかもしれない。 だが、俺の人生には残念ながら主人公が居ない。 い や……厳密に言えば、俺が、「成上悠麻」という男が主人公なのだろうけど、主人公というよりかは村人や男子学生Aとかの脇役以下の存在。 特別な才能も特に秀でた箇所も何の取り得もない俺。 ぶっちゃけ、俺の人生はあっても俺の物語はなくて、誰かの物語の登場人物の一人なのだろうと思う。 ――そう。ただの脇役の脇役。    日常を甘受するだけの存在、あるのはこの窓際の後方の席という非日常だけ。 けれど、決してそれを不満になんて思っていなかった。 それに主人公と呼べるものが居るとしたら。 「水瀬、この英文の訳を答えてみろ。」 「――彼女は交通事故に遭い、全治三ヵ月の大怪我を負ってその間に仕事を失いました。」 さらさらとして綺麗な髪。 女子にしては少し高い身長だけど手足はすらりと伸びていて。 そして何より、最近のアイドルすら霞んで見える程整い、誰も彼もの視線を釘付けにする容姿。 「正解だ。流石は先月の模試でトップだっただけあるな。」 「そんな先生、大げさですって。」 朗らかな笑みを浮かべる水瀬奏。 彼女こそが物語の主人公であり、ヒロインと呼ばれる存在なのだろう。いや間違いなくそうだ。 そして、もちろん彼女は「非の打ちどころがない」という才能がある。 ……ただ、別に羨ましいだとかは思わない。 俺はそういう存在だから。 色がない、ただの人間なんだと自覚しているから。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!