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物語には必ず主人公が居る。
どんな物語であろうと、その話と中心となる主人公が。
そして、主人公は大体誰にも負けない才能が一つや二つあって、特異な存在だ。
……物語といえば、人生もそうなのかもしれない。
だが、俺の人生には残念ながら主人公が居ない。
い や……厳密に言えば、俺が、「成上悠麻」という男が主人公なのだろうけど、主人公というよりかは村人や男子学生Aとかの脇役以下の存在。
特別な才能も特に秀でた箇所も何の取り得もない俺。
ぶっちゃけ、俺の人生はあっても俺の物語はなくて、誰かの物語の登場人物の一人なのだろうと思う。
――そう。ただの脇役の脇役。
日常を甘受するだけの存在、あるのはこの窓際の後方の席という非日常だけ。
けれど、決してそれを不満になんて思っていなかった。
それに主人公と呼べるものが居るとしたら。
「水瀬、この英文の訳を答えてみろ。」
「――彼女は交通事故に遭い、全治三ヵ月の大怪我を負ってその間に仕事を失いました。」
さらさらとして綺麗な髪。
女子にしては少し高い身長だけど手足はすらりと伸びていて。
そして何より、最近のアイドルすら霞んで見える程整い、誰も彼もの視線を釘付けにする容姿。
「正解だ。流石は先月の模試でトップだっただけあるな。」
「そんな先生、大げさですって。」
朗らかな笑みを浮かべる水瀬奏。
彼女こそが物語の主人公であり、ヒロインと呼ばれる存在なのだろう。いや間違いなくそうだ。
そして、もちろん彼女は「非の打ちどころがない」という才能がある。
……ただ、別に羨ましいだとかは思わない。
俺はそういう存在だから。
色がない、ただの人間なんだと自覚しているから。
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