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…………それから。
何故か『医者になる!』と言い出した葵は、俺が働いている総合病院で働く事になった。
休憩の合間には必ず俺の研究室に入り浸り、論文が全く進まず良い迷惑だ。
しかし。
子供のようにスナック菓子持参で部屋に来ては、患者がどうとか看護師がこうだとか笑顔で笑ってるので俺も嬉しかった。
「しかし葵が小児科医になるとは思わなかったな~」
俺はチョコレートのかかったクッキーを口にした。
この手の菓子類は大量生産の均一な味がして、添加物の安全は定かではないが、中々美味い。
「だって子供好きだし。ここなら咲良と一緒に居られるでしょう?」
葵が突然しおらしく頬を染めたりするから、俺は噎せてクッキーを喉に詰まった。
「ちょっ…咲良、大丈夫!?」
葵が差し出したティッシュボックスにブンブンと顔を振り、
葵とお茶していたテーブルから離れ、自分の机の前に座った。
惚れた女の可愛い姿を自分に向けられた試しがない。
凄まじく半端ない衝撃だ。
俺は顔が紅潮しそうなのを、気持ちの悪い解剖学を思い出し、冷静を装おうとした。
「咲良、お水。
あとボールペン逆さまだよ?」
水を持ってきてくれた葵に冷静さを打ち砕かれ、俺は逆さまのボールペンを置き
無言で水を飲み干した。
そしてグラスを口から離した時、目の前に葵の唇があった。
「……………っ!?」
「…あ~あ、ファーストキスは好きな人とって決めてたのになぁ…
あ、好きな人は咲良だからいいのか」
葵は訳の分からない事を呟きながら、俺が硬直して落としそうになったグラスを手から奪い
流しで洗い始めた。
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