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俺が文化会館の『桐生 葵様』と貼り紙された控え室前に来ると
葵が泣いている声が廊下からでも聞く事が出来た。
俺はノックしながら「聞こえてるぞ」と中にいる葵に声をかけた。
突然止む泣き声。
あのプライドで出来てるような女が、周りを気にする余裕もないなんてな…。
俺は苦笑しながら控え室に入った。
「…咲良。人が泣いてるって知ってるのに笑うなんて最低ね」
散々泣き腫らした顔で、目も当てられない格好になってる葵が、静かにコチラを睨んでいた。
完璧な誤解だ…。この葵をこれから励まそうだなんて何百年もかかりそうだ。
俺は、ため息を吐いた。
「…あのさ、俺泣いてる女見て笑うほど性格悪くないから」
「さあ、どうかしらね」
完っ璧に平行線。
「……葵はさぁ、どうして昔から俺に対してだけそんなにひねくれてるの?」
この息が詰まりそうな空気が苦しくて、
俺は冗談混じりに会話を逸らし、煙草に火を着けた。
「……そんなの、咲良が子供の頃散々私をいじめたからじゃない」
葵は、泣いて崩れたマスカラを鏡を見ながら必死に拭き取っていた。
言ってる言葉に感情がない。
“そんな事気にしてもいませんよ”という高飛車なオーラが全身から感じられる。
俺が子供の頃いじめた理由……。
まぁ今なら分かるが、『好きな子にどう接していいか分からない』というヤツだ。
気を引きたいけど、好きだと思われるのが恥ずかしいっていう、男の風上にも置けない女性に対して最低な接し方だ。
今でもそんな自分を恥ずかしくて説明出来ない程たいして成長してない俺だが、
少なくともあの頃よりは成長し、泣いてる葵をからかう程余裕のない男ではなくなった。
しかし説明のしようが無く…俺は口を閉ざした。
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