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沈黙が続く…
でも沈黙を破ったのは葵だった。
「…喉が渇いた」
葵の、俺に言ったのか分からないような呟きに、俺は黙って控え室から出た。
廊下の突き当たりの左手にあった自販機で、冷たいコーヒーを買った。
葵は紅茶好きだが、自販機のは好まない。
コーヒーは『苦いから美味しさなんか分からないから自販機でもいい』と良く分からない理屈を言っていたから。
控え室に戻ると、葵の座っているドレッサーの前に置き
俺は座っていたソファーにもう一度腰を降ろした。
「…よく私がコーヒー飲みたいって分かったね」
「ていうかお前が以前、自分から『自販機の紅茶は飲まない』って言っただろ」
「泉はさっき差し入れてくれたわよ。私の好きなミルクティーを。缶で」
…そりゃあ、好きな女でもない限り“缶だけはコーヒー”なんて覚えてないだろう。ましてや葵なんか茶葉を自分から探しに行く程紅茶好きだ。兄貴の行動は間違いなんかじゃない。
だけど、そんな些細な出来事で傷ついた女が目の前に一人……
葵は嬉しそうに受け取っていたな。
その笑顔の裏には、どんな泣き顔があったのだろう。
涙を見せないどころか、口角を上げるのにどれだけ心を痛めただろう……
葵の気持ちを考えると胸が苦しくなる。
それを飲み下すように、自分用に買ったコーヒーを煽るように口にした。
…苦い。
きっと葵の気持ちも同じだろう。
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