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その世界は闇が支配していた。時折、唸るような声を上げ、闇を深くする。
暗く、狭い、誰一人いない無の空間。何も無い。まるで『心』だけがぽっかりと切り取られたような、虚しく、哀しい世界。
けれど、そこにいるのは──。
──私一人……?
その少女は闇を彷徨していた。次第に深くなる闇はその触手を伸ばし、少女を侵食していく。
──来ないで……。
少女は闇を振り払おうとする。けれど、闇はなおも絡み付き、少女を深淵へと誘う。
その時、遠くで一筋の光が闇の中に差し込んだ。
──私はこの光を知っている。
暖かな光──。
導かれるように、少女はその光に向かって歩き出した。闇は少女を行かせまいと己を深くする。
光が差し込むその場所にようやく辿り着いた少女は、天に向かってスッと手を伸ばした。
すると、光の中から誰かの手が差し伸べられた。
少女は願う──。
──お願い。
──私を……。
ここから出して……!
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