壱夜 「過ぎた力」

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「もうそんな態度はとらなくて良いわ。素の貴方を見せて頂戴」 「……はぁ、俺は翼月<ウゲツ>だ」  すると少年はすぐに態度を戻す。 「翼月……良い名前ね。私は八雲 紫よ。紫で良いわ」  それに応じる様に女性も紫と名乗る。 「へぇ……紫か、そっちも良い名前じゃないか」 「そう言って貰えて此方も光栄よ」  それから互いに笑い会う。 「それで紫、俺に何の様だ?」 「貴方、誰にも追われない世界に行ってみたくない?」 「誰にも追われない世界ねぇ……あるんだったら行ってみたいな」 「有るわよ」  紫は呆気なくそう言いきる。 「なら、連れていってくれないか? その誰にも追われない世界に」  翼月は鬼人としてこの世に生まれた。  それは鬼の力強さと人間の打たれ弱さを兼ね備えていると言うこと。  その所為で鬼の力を欲した者達が次々と現れて翼月を襲ってきた。  そして翼月は自分の命を守るためにどんな事もしたし、沢山の妖怪や人間を殺してきた。翼月の目は鬼人の目と呼ばれ、それを得れば鬼の力を手に入れることができるという。 「それじゃ行きましょう。貴方の安静の地へ」  その満月の夜からこの世界で、この世の有りとあらゆる世界で翼月の姿を見ることは無かった。
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