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美緒は目の前でにこにこしながら立っている先輩をまじまじと見た。
新入生の明日佳とともに握りしめている1枚の紙。
可愛らしい丸文字で書かれたその文章は、ところどころに絵文字をはさんでおり、さらに右下にはピンクのハートを抱えた、人参に羽の生えたキャラクターが描かれている。そして、その横の吹き出しには“Love Game”と書かれていた。
「あの…これ」
一度軽く目を通してみたが、その内容がいまいち理解できずに美緒は先輩のほうへ目をやった。
「さ、読んで読んで!」
彼はその意図を汲み取ることなく、さらに読むように促す。まるで遠足に行く前の幼稚園児のように興奮を抑えきれていなかった。
美緒と明日佳は一度顔を見合わせ、2人で声を揃えてその奇妙な文章をゆっくりと読み始める。
「あなたはとても幸運な人です、はーと。このカードを引いた、あななには、男の先輩に告白する権利が与えられます、はーと。というわけで、さっさと誰かに告白しちゃってください、びっくり。男達は、いつでもあなたのことを待っています。だぶるびっくり、にこっ」
絵文字を忠実に自分の言葉で再現し、突然現れた誤字にも気後れせずにしっかりと読み上げた。あなな、というのはあなたのことだろうか?
しかし、そんなところにつっこむ間もなく、美緒は一歩踏み出して不機嫌そうに聞いた。
「どういうことですかっ!?」
それに対して、非常にそっけない返事が返される。
「だから、そういうこと」
美緒は間髪入れずに次の質問を繰り出す。
「これが罰ゲームなんですかっ!?」
「あん」
相変わらず先輩のほうは、別に問題はないだろうといった感じで、質問を軽く受け流す。
「でも、ただのじゃんけんにしてはちょっと重いんじゃ…」
今度は明日佳がしごく冷静な目つきで尋ねた。
それを聞いた先輩は一瞬顔をしかめつつ、皮肉っぽく語尾を伸ばしながら切り返す。
「そんなぁ~、じゃんけんをなめちゃいかんよぉ~」
「いや、そういう問題じゃ…」
明日佳がやれやれといった感じで答えると、先輩はすかさず、半ばむりやり2人に難題を押しつけた。
「とにかく!告ってね!絶対!できれば1カ月以内くらいに」
うきうきしている彼の表情を見て、美緒は両手をばたつかせながら嘆いた。
「めちゃくちゃですよぉ、せんぱーい」
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